白い風が吹いて

 

起き抜けにつけたテレビのワイドショーで、今日は雪だ雪だと取り上げている。

その日は休日出勤の皺寄せの平日休みで、それでも友達との予定があったから昼頃に家を出なければならなかった。

窓の外を見たら確かに細かい雪が舞っていた。朝起きてゴミ出しした時はまだ降っていなかったのに。

しかも前日の予報とは大きく異なっていて、都内でも5cmは積もるだとか、気温は0度を下回るかもしれないだとか、延々と伝えていた。ヒェーと思いながら、スカートを履く予定だったのをジーパンに変更。実家からこないだ持ってきたお気に入りのスノーブーツを履いて家を出た。

 

まだまだ粉雪レベルとはいえ、都内では雪が降っていることすら珍しい。本当に積もるんだろうか。足元のスノーブーツをチラチラと見ながら歩く。SORELの黄色いスノーブーツ。この靴を履いたのは数年前の北欧旅行ぶりかもしれない。これで積もらなかったらちょっとブーツが浮くなぁ。

 

そんなことを思いながら道を急ぎ、最寄り駅に着いた。構内に入る入り口付近がうっすらと白くなっていて、あれ、もう積もってるのか?と焦ったけれど、ピーンときた。融雪剤だ。小さい頃、雪だ雪だと駆け寄ったら謎の白いつぶつぶが散らばっていて、首を傾げたことがある。誰だかが雪ではないことを教えてくれたけど、誰だったかな。

 

構内入り口周辺だけでなく、点字ブロックの道の上にも融雪剤がかけられていて、あっ、と思う。脳裏に前クールのドラマ『恋です!』の弱視の主人公が、点字ブロックの上を白状を叩きながら歩いている姿が浮かぶ。確かに、点字ブロックに雪が積もったら大変だ。今まで融雪剤が点字ブロックにかけられているのを見たことがなかった気がする。それとも雪の日に点字ブロックを意識しなかっただけだろうか。あのドラマはどうやら賛否両論あったようだが、そういう「色んな人に知ってほしい世界」というのを視聴者に広げたというだけで、ドラマ化した意義はあったよなと思う。

 

友達と合流して、景色がよく見えるお店でご飯を食べる。その間も雪は延々と降っている。途中、風も強くて横殴りの雪のようになっていた。買い物をしている間も外ではどんどん雪が積もっていく。時折玄関や窓から見える銀世界にぎょっとした。店員さん同士も「だいぶ積もってきましたね〜」「ね〜」と会話していた。入り口付近の天井に暖色系のイルミネーションが藤のように下がっていたのも相舞って、不思議とクリスマスに似た雰囲気を醸し出していた。

 

雪が積もると困るのは、交通機関である。帰宅難民には絶対になりたくないので、早めに買い物を終わらせて解散した。乗り換え駅で少し電車が遅れていて、これはやばいか、、?と思ったけれど、雪が原因ではなかったのでホッとした。

ホームから見える景色も、いつもとは大違いだ。どんなものにも3cmくらい、律儀に雪が積もっている。文字が出っ張っている看板の一文字一文字にも積もっていて、まるで白い影が付いているようだった。雨とは違い、音もなく降る雪は、なんとなく不思議な気持ちにさせられる。

 

いつも雪が降ると思い出すのは、ある日の高1の現代文の授業だ。たまたまその日、初雪が降っていた。変わり者で面白くて、生徒から人気の高かった担当教師が「せっかくだから内容を変更して雪をテーマに短歌を詠みましょう」と言って、一人一首、藁半紙に書かせて集めた。

私は窓際の席で外を見ながら、風が雪に乗って白く見えるな、、、と思い、雪を雪という単語を使わずに「白い風」と表した。なかなかいい表現ができたな、、と我ながら思っていると、一首一首読み上げていた先生が私の歌を読んだ後「あっ、この人はすごいですねぇ、風が見えるんですね」と言って流した。この先生のことはかなり好きだったけれど、この件に関しては未だに不服である。比喩だもん。表現だもん。

 

 

最寄り駅に着いてもまだ雪は降っていた。だいぶ大粒だ。点字ブロックの方をちらと見ると、普通に積もっていて見えなくなっていた。あれは大丈夫なのか?

傘を広げてザクザクと歩く。目の前でローファーを履いた女子高生が少し滑りかけていた。

スノーブーツ、大正解だったな。こんなに早く活躍するとは思ってなかった。ヨシヨシと思いながらザクザクと歩く。誰も踏んでないところも踏んでやろう。スノーブーツだし怖くない。まだ綺麗なままの雪の絨毯よ、足跡の平行線を刻んでやるぞ。一人分だけどな。ヨシヨシ。

楽しくなってきたところで、ふと顔を上げる。越してきてちょうど一年。見慣れたはずの街が、まるで知らない場所のようだ。

この街に来てから、雪、ちゃんと降ってなかったんだなぁ

 

頭の中でスノースマイルを流しながら歩いていると、不思議なポーズで歩いている男の人とすれ違った。

よく見たらフクロウを2羽、腕に乗せて歩いていた。

 

いやなんでだよ。