時をかけるお弁当

 

年明けくらいから、節約のためにほぼ毎日お弁当を作って持っていっている。他の部分で物欲に忠実なせいでお金は貯まる気配を見せないが、とりあえず削れるところは削ろうと継続はしている。

基本的に前日の夕飯の残りを入れ、残りのスペースに気まぐれに作った作り置き副菜(以前はきんぴらごぼうとか作っていたが、最近はもっぱらナムル系)、それがない時はゆで卵か卵焼きを詰める。あとはミニトマトと冷凍ブロッコリー。外食した翌日は冷凍ストックに頼る。大体スーパーの塩鮭かハンバーグの二択。

これが私のお弁当を構成するレギュラーメンツだ。お弁当もそんなに大きくないし、私的余裕もないので毎回これで回してる。冷凍ブロッコリーにはそろそろ飽きてきた。

 

GWに実家に帰るから私も合わせて帰ってきたら、と姉に言われた。一日しか休みがなかったが、その前日が日勤だったし、まぁ帰らないこともないか、と帰ることにした。その日もいつものルーティンとしてお弁当を持っていった。実家で洗えばいいや。休みの夜に帰るつもりだったので、休み明けの仕事には冷凍ストックを詰めるか〜という感じで。

 

とはいえ、いざ実家に帰るとぬくぬくとしてしまう。一日でも長く実家にいたくなってしまう。姉はしっかりとGWをもらっていたので、翌週まで実家にいる予定のようだった。え〜〜いいな。私ももう少しいたいな。

考えた結果、休み明けの仕事を実家から出勤することにした。自宅よりもだいぶ早めに家を出ないといけないが、一人暮らしをする前は同じように通っていたので問題はない。ルートも頭に入っている。

 

ただ一つ、お弁当をどうするかだ。実家で作る?空の弁当箱を持ち帰って向こうで買う?割と後者が濃厚だったが、ふと出来心で「お母さんお弁当作ってよ」と頼んでいた自分がいた。

大学に入学するまで、母のお弁当にはお世話になりっぱなしだった。幼稚園から毎年の小学校の遠足。中学は休日の部活も含めて毎日。高校の部活は午前午後に分かれていたのでいらなかったが、それでも平日の授業日は作ってくれていた。

恵まれていたなと今になって思う。孝行娘ではなかったので、自分で作るということも考えたことがなかった。幼稚園の頃は、私が好きなパンダをおにぎりを組み合わせて作ってくれたこともあった。今思えば立派なキャラ弁だ。中学の頃は毎日お弁当でレパートリーがなくなったのか、豚汁の具やカレーの人参が入ったりもした。高校生の頃、仲のいい友人のお弁当にサラダが入っているのが羨ましくて、わがままを言って小さいタッパー一つ分をサラダにしてもらっていた。大体レタスをちぎったものにミニトマトが入っていて、ドレッシングはカロリーが、、!とか当時の私がうるさかったので、小さい容器にポン酢を入れてくれていた。

母のお弁当は高校と共に卒業した。ほぼ10年、母のお弁当を食べていない。高校卒業から10年と思うと少し引くが、母のお弁当を食べなくなって10年も経つともあまり思えない。それでもそれくらい時は流れていた。

 

私の今回の我儘に母は最初「え〜?」と渋っていたが、最終的にOKを出してくれた。断られるかと思っていたので、素直に嬉しかった。久しぶりに母のお弁当を食べられるんだ。

出勤の朝、10年前と同じようにお弁当の準備をする母の姿があった。きちんと朝に副菜を作っていて、あれこれ手際よく詰めている母。そんな母を見ながら、なんとなく学生時代を思い出してにやけてしまう私。お弁当が完成し、母が手渡してくれる。これほどお昼ご飯が楽しみなのは久しぶりだった。

 

お昼休み、同僚たちと一緒に食堂へ赴き、お弁当の蓋を開ける。

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開けた時点ですでにかなり懐かしい。私がめちゃくちゃ好きだった海苔だんだんにしてくれている。私の朝は時間がないので絶対に作れないものだ。嬉しい。他のおかずもよく母のお弁当に入っていたものたち。ちくわの醤油焼きと焼いたウインナーと、ピーマン(今日はパプリカ)の炒めと、チーズ入りの卵焼き。アルミの仕切りに入っている厚揚げの煮物は昨日の夕飯に私がリクエストしたものだ。

一口食べただけで、なんとも表現できない気持ちがぶわぁっと湧き上がった。美味しい。懐かしい。嬉しい。なんとなく涙が出てきそうになったのを慌てて堪えた。お母さんのお弁当、そうだった、こんな味だった。美味しい。

 

食べ終わった後、母に「完食しました、とても美味しかったです!ありがとう」と連絡をいれた。

「久しぶりに作ったからどうかなーと思ってた、よかったです」と返ってきた。

母の味って聞かれた時にいくつか浮かぶ料理はあるけれど、お弁当もしっかり母の味だった。

 

そこからは毎日自分でお弁当を作っている。このお弁当も、ちゃんと私の味になっているんだろうか。なんとなく、そうだといいな。