はちあわせ

 

その日は夜勤明けで、しばらく緊張していた案件も一旦終わったところで、とりあえず新発売のスタバの焼き芋ブリュレフラペチーノを飲んでから帰宅、洗濯をした後に自分へのご褒美だ〜と回転寿司を食べに行ったりしていた。

夕方前くらいに隣駅まで行って、ちょっと良いスキンケア用品でも買うか〜と思い立ちバスに乗って外出。色々と説明を受けたのちに膨大なサンプルをもらって再び帰宅。ご飯を作ってお風呂に入って早めに寝る、、、、予定だった。

バスに乗りながら、久しぶりにイヤホンで音楽を聴いていた。ここ最近、電車とかに乗らないのでイヤホンを使うことが相当久しぶりだった。都内にいた時はしょっちゅう使っていたのに、最近では使わなすぎて充電がなくなったりしていることに気づかない。せっかくのAirPodsなのに。今回は外出前に軽く充電をしておいた。

帰りのバスを降りて、音楽を聴きながら歩く。ちょうどその時聴いていたのが、歩くペースにぴったりだなと思っていたのだけど、今となっては何聴いてたっけ、、、、と全然思い出せない。

それほどまでに、その後の出来事が大きすぎた。

エントランスを入り、階段を上る。廊下の端の、私の部屋。階段を上り切って、進む方向に顔を向ける。ちょうど私の部屋の前に、いつもはない何かが落ちている。赤錆っぽい色をしている。動いている。

一瞬でわかった。ハチ。それもかなり大きいやつ。色もやばいやつ。オオスズメバチ

廊下を這ってあちこち歩いている。飛んでいかないかな、と少し待ってみたが、その気配はない。ずっと階段を上りきったところにいるのも、他の住民に会ったらかなり気まずい。ご近所付き合いは怪しまれずに円満にしたい。今のところ付き合いはゼロだけど。

うーーーんと考えた挙句、一度アパートを出て一帯を一周して帰ることにした。落ち着かせるためにイヤホンを耳に突っ込む。その時流れてきたのが、the peggiesのスタンドバイミーだった。

スタンドバイミー お願い

僕は 僕は 強くなれるのかな

君が今ここにいなくても

手を伸ばす自信をくれよ

切ない失恋の歌なのに、今聴くとこのサビが、ハチを一人で退治する勇気のない歌に聴こえてしまってよくない。the peggiesはとてもいいバンドなのでオススメです、今月で活休してしまいますが、、、、

スタンドバイミーが聴き終わるくらいにちょうど一周し、ドキドキしながら階段を上って廊下を覗き込む。

おる。

Uターンし、近所のカフェでお茶することにした。本当は冒頭のご褒美の候補に上がっていたカフェで、スタバでフラペチーノと共にチーズケーキも食べてしまったので次回に回すつもりだったカフェ。もうしょうがなくない??と思って駆け込んだ。たまたまずっと食べたかったティラミスがあったので注文、アイスコーヒーと共に食べる。本日二つ目のケーキ。ハチのせいで食べているので、ハチにお金を払ってほしいし、カロリーもゼロにしてほしい。別に私はハチミツも好きじゃないので、家の前を占拠するのならそれくらいしてほしい。無理ですか?じゃあ早く巣に帰ってください。

その時点で17時半を回っており、洗濯物をしまいたいという感情しかなかった。困ったなぁ、、、なんとなくせっかくのケーキにも身が入らず、あっという間に食べ終えてしまった。

もう一度、帰るか。

階段を上りきる。いる。まだいる、、、、

困ってしまい、その場で対処を検索。ハチは飛びかかる前に、最終警告としてアゴをカチカチ鳴らすとか、ゲームの敵を攻撃するタイミングみたいだなと思うなどした。RPGか?そして、どうやら地面を這っているハチはもう死期が近く、飛ぶ体力も残っていない、とかいう説を見かけた。

強行突破するか、、?と思って見守っていると、なんとなくこちらに向かって歩いてきているように感じる。結構歩くスピードが速い。

あっ、私今日黒いTシャツだし、コスメショップで匂い強めのクレンジング試させてもらったんだった。

それでなのかは不明だが、すごい勢いでこっちに歩いてきているように感じたので、一度階段を下りる。え〜〜なになに、、、

もう一度様子をみようと思って階段を上る。上りきる、、、、、と思った瞬間に角から現れる赤錆色の揺れる頭。

ウワアアアアア

一気に階段を駆け降りる。めちゃくちゃデカく見えた。恐怖補正かもしれない。何これ、RPG?敵の監視にバレないように進まなきゃいけないやつ?え、ここはダンジョン?ていうかなんなのアイツ。なんで我が物顔で廊下を闊歩してんの?マジ無理、怖い。鉢合わせした。ダジャレみたいになるのが悔しい。コッワァ。

バクバク鳴る心臓を抑える。でも、あのまま歩いて行って逆サイドの廊下の方に行ってくれれば私の家には入れるのでは、、、?足が恐怖でフワフワしていたが、階段をもう一度上ってみる。再び鉢合わせする可能性もあるので、過去最高に慎重に上る。上り切った。ヤツはいない。廊下を覗く。

いない。

勝った。勝った、、、?

喜びに震えながらドアに駆け寄り入室。

ハアアアアアア、、、勝った、、、、

そのまま慌てて洗濯物を取り込む。ここでハチに出くわしたら元も子もないので、しっかり様子を見ながら洗濯物も払って取り込む。

もういない。あいつはいない。

時刻は18時になろうとしていた。

 

その夜はずっと家の床にもハチが歩いているような気がして、ずっと目線は下の方だった。夢に出てくるんじゃないかと思ったけど、出てこなかった。

もうウチのアパートにもこなくていいよ、頼むよマジ。