罰ゲームを打ち砕け

 

たぶん出会いが最悪だった。

大学近くのありえないほど安い居酒屋で、300円。大学生の飲み会のノリで、白いとっくりが3つほどと、人数分運ばれてくるおちょこ。

あれが私と日本酒の出会いで、それはそれは最悪な印象を植え付けられた。鼻と喉にツンとくる匂いと、甘いんだか辛いんだかわからない味、そしてガツンと感じるアルコールとカッ!と熱くなる感覚。その上、ゲームに負けたら飲む、という今だったら怒られそうな飲み方を強いられていたため、私の中では完全に「罰ゲーム」として刷り込まれていた。日本酒が出てくる飲み会は大抵結構飲まされる会で、日本酒が運ばれてくるとゲンナリしていたし、飲まされた後の体調の悪さも相まっていい記憶がない。

だから日本酒はずっと苦手だった。種類も多すぎてわからないし、それにどれもあのガツンとくる味がするものなのだろうと思っていたのでずーっと距離を置いていた。

それでも、日本酒が好きな人たちは私の周りに結構いた。うちの家族は私を除く3人とも日本酒が好きだ。私もお酒自体は飲むのだが、美味しい日本酒を買ったよ〜と母が嬉しそうに出してきて飲む際、一応一口飲んでみてはンンン、、、となって残りを姉にあげていた。美味しいと言われている日本酒でもそんなに美味しく飲めないので、きっと日本酒は口に合わないんだろうなぁと思っていた。

それでも日本酒を好んで飲む人たちを遠巻きに見ながら、あんなに美味しそうに飲むものを私も一緒に楽しめないのは悔しいな、とボンヤリ感じていた。インスタで酒造めぐりをしたり、飲み比べをしたりしている友達の投稿を見るたびに、一緒に行った友達が居酒屋で日本酒を頼んで飲んでいるのを見るたびに、そんな気持ちはムクムクと育ってゆく。

私も、日本酒を美味しく飲みたいな。

そうして、今年のやりたいことリストの中に「日本酒を克服する」が追加された。

日本酒に詳しい友達となんとなく飲みに行っては一緒に頼んで飲んでみる。そんなことを今年に入ってから結構繰り返していた。それでもなかなかこれ美味しい!と思えるものに出会えない。職場の先輩にその話をしたところ「別に無理することないんじゃない?」と言われ、なんとなく挑戦を否定されたように感じて少し悔しくなったりした。

そんな矢先に引っ越しが決まった。行っちゃう前に飲もう、と中学の友人に誘われて入った居酒屋街の焼き鳥屋。ビールやレモンサワーを飲んで大分気分が良くなったところで、メニューの裏側に書いてあった全国の地酒リストに目が止まる。私が行く予定の県の地酒がラインナップに入っていた。なんとなく、酔っ払ったノリでそのまま注文。隣で友人は私たちの地元の地酒を頼んでいた。

運ばれてきた枡に入った並々のグラスに口をつける。

スッとした口当たりって、このことを言うのかな。そう思うくらい口に入れた瞬間に苦手に感じていたガツンと感がなく、日本酒で使われていたフルーティーっていう表現がしっくりとくるような味がした。それは、今まで日本酒で味わったことのないような味だった。

あ、これ、美味しいぞ。

結構酔っ払ってから飲んだ日本酒だったのですでにかなり陽気で頭もぼーっとしていたが、しっかりとお酒の名前は覚えて帰った。行く前に向こうの地酒で気に入ったものを見つけたことは心強かったし、何より初めて美味しいと思えた日本酒がその地域のものだったのも何かの縁なのかもと思えて嬉しかった。

こっちに来てから、先輩に飲みに連れて行ってもらう際にもよく日本酒は登場した。実は結構日本酒の酒蔵が多いところらしい。グルメな先輩もいて、あの時覚えたお酒の名前を伝えると、近そうな味のものを飲ませてくれたりした。だんだんと、大学生の時に感じていた苦手意識がほぐれてゆく。

ちょうどそんな頃に、美味しい日本酒と出会った時に一緒に飲んでいた友人が私用でこちらに来ることになった。迎えてぶらぶらしていると、街のあちこちにテントが張ってある。中では普通の屋台とは異なる、居酒屋ででるような食べ物が売っていて、この辺にこんなに人いたんだと思うほどかなり賑わっていた。不思議に思って調べると、地域の酒蔵が集まって飲み比べ祭りのような催し物が行われていた。これは参加するしかないのでは、、、?

お金と引き換えにおちょこをもらい、あちこちにあるテント内で試飲ができるようになっている。気に入ったものがあれば、酒造ブースで格安で色々な種類が飲める仕組みになっていた。特にプランは決めないまま、歩いて出会ったブースでフィーリングで試飲してみることにした。

行き当たりばったりで飛び込み参加したけれど、結果としてとても楽しかった。色んな種類をちょっとずつ飲めるので、自分のペースでのんびり楽しめてかなり良かった。飲んでみて、ア〜これはきつい!となるものもあったけれど、あの時の日本酒と同じくらい美味しく飲めるものにもいくつか出会えた。あのお酒以外は美味しく飲めないのではないかと思っていたので嬉しいし、自分がどんな味が好みなのかが何となく掴めた気がする。何より、友人とあーでもないこーでもないと言いながら日本酒をテイスティングしていくのも大層楽しかった。

日本酒のお祭りに自分が参加して、かなり楽しめた。あんなに苦手だったのに。その事実は「日本酒が苦手」という意識を完全に打ち破った。

頭の中で、日本酒を美味しそうに飲んでいた家族や友人が浮かぶ。彼らに今日出会った日本酒をオススメしたらなんて言うだろう。

こんなことを言うと、安居酒屋の飲み会でその場のノリで出てくる日本酒をもっと飲まされるようになる予感もするので、これだけは言っておきたい。

美味しくのんびり飲める日本酒が好きです。

どうかそこのところ、よろしくお願いします。