豚をかぶる

 

約10年間、ずっと欲しかったものがあった。

先日ついにそれを手に入れた。

これである。

 

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トイ・ストーリーのハムのかぶりもの。高校卒業時に友人達と制服で行ったディズニーランドで見つけて以来、ずっと欲しかった。お値段2,900円。高校生では、2,900円はなかなか勇気の必要な金額だった。大学に上がってバイトを始めてもそれは同じで、大学院では夢の国自体に縁遠い生活をしていた。そもそも年々上がっていく入場料を払うことで大体満身創痍で、その上お土産でほぼNPはゼロになるため、園内の装飾品にお金はかけられない。

そんなこんなで気づいたら10年ほど経っていた。ハムの被り物の存在も、私の中から薄れつつあった。そもそもディズニーリゾートに滅多に行かない人生を送っており、最後に行ったのはコロナ禍直前で、社会人になる直前の春。高校の友人と薄紫のウサギ、ステラ・ルーのリンクコーデをしてはしゃいだ回だ。頭にはステラ・ルーのウサギの耳をつけていた。

 

今回のディズニー旅は会社の先輩後輩との大人数によるもので、社会人になってから初めてのディズニーだった。コロナと共に就職したので、なんかチケット争奪戦とかよくわからないし、、と避けていた。そんな中でもどんどん変化を遂げていく夢の国。今回のメンバーの中によく来園する先輩もいたので色々とガイドしてもらったのだが、とにかく今は全般的にアプリを片手に動くことが多い。ファストパスも消え失せていた。かつて大量の人が並んでいたファストパス発券機は道の脇にひっそりとカバーをかけられたまま佇んでいて、完全に遺産と化していた。

とはいえ、その日は一日中雨。ずーっと雨。それゆえにかなり空いており、1時間以上待つこともなかった。ほとんどが30分くらいで乗ることができ、中には5分ほどの待ち時間のものもあった。並んでいる途中の、作り込まれた世界観のセット等はすべて素通りせねばならなかった。雨のディズニーは何回か来たことはあるが、さすがにこんなの初めて。すごいすごいとみんなではしゃいでしまった。

 

かなりの勢いでやりたいことチェックリストが達成されていく中で、時折ハムの被り物をした人とすれ違う。あの日お店で見てから10年くらい。ずっと販売し続けていたとなると、かなりの人気商品なのだろうか。どうしても目でハムを追ってしまう私がいた。まだ売ってるんだなぁ、、、、

「あれ、高3の卒業祝いで来た時にめっちゃ欲しかったんですよね」と何の気無しに先輩に言うと、「え!買いなよ!!」と思いがけずめちゃくちゃに背中を押された。

その時にまだハムを被りたい自分がいることに気づいた。

そうだ、私はずっと、ハムを被りたかった。

 

社会人になった今、同じくらいの単色アイシャドウを結構衝動的に買ってしまうことも多い。それなら、ハムの被り物を買ったって。あの頃の夢を叶えたって。

だってここは夢の国だもの。

 

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買った。

プライバシーの観点から顔を隠しているが、ほとんどこのステッカーと同じような顔をしている。ダブルピースで。背景のイタリア風建造物もあいまってかなりいい写真になった。他にも先輩達が面白がっていっぱい写真を撮ってくれた。それらの写真、すべてドヤ顔をしていた。

とにかく「ハムを買いたい」ということを叶えるために、店で見つけた瞬間即購入することになった。売っている店も限られていたようだし。「私たちもあとでカチューシャ買うから〜〜!」と言っていた先輩たちだったが、結局あれこれ乗っている間に夜になってしまい、私だけ集団の中でハムを被っているひょうきんな女になってしまった。まぁ実際そうだったのだが。

 

 

帰り道、夢の国の門を出た瞬間にハムを脱いだ。魔法は解けたのだ。

 

あの高3の制服ディズニーのメンバーのうちの一人に用事があったので帰りの電車で連絡をした際、ハムを買ったことを写真付きで報告した。向こうが覚えているのかは定かではなかったが、シンデレラ城の前でみんなで手を繋いでジャンプしている写真が送られてきた。私のスマホにはもう保存されていない、あの日の写真。

とにかく若い。写真の中の我々は若かった。自覚はなかったけど、いざ目の当たりにするとあまりの若さに笑ってしまう。

月日は流れた。自分でお金を稼ぐようになった。あの頃の夢は、きっとこうやって少しずつ叶えられるようになってゆく。手提げにしまったピンク色のふかふかの頭を撫でながら、そんな未来に想いを馳せた。

 

一日中降っていた雨は、帰り道だけ止んでいた。