さすがに暖房

 

その日は夜から雪だというので、先日の最強スノーブーツを履いて、実家から持ってきたダウンを羽織って耳あて付きのニットを被り、チャリの鍵を持たずに家を出た。ドアを開けた瞬間あれ?と思う。もう、雪、降ってるじゃん、、、

ズンズン歩いていると、なんとなく視線を感じる。さすがに冬の装備すぎたかな。スキー場にいてもおかしくないもんな、、、と思い、職場の入り口前でニットを取ってから気づいた。リュックが全開だった。

10年に1度の大寒波の日。いつも水を入れている水筒には白湯を入れた。ぐっと飲んだら舌を火傷した。引っ越してきたこっちの地域が寒いのか、今年の日本が異様に寒いだけなのか、それともその両方なのか、もうこんな感じの天気予報が続いてしまうとわからない。窓の外にちらつくとかいうレベルではない雪を横目に、氷点下を告げる天気予報を逆サイドの横目に仕事。下がっていく気温に震え上がり、窓の外に見える公園の芝生はどんどん白くなっていった。大きなスノードームを見ているような外の世界。公共交通機関の心配をしなくていいのはかなり心が軽いなぁとボンヤリ思う。

10年に1度、と言われている今回。その前の寒波は、おそらく私たちの大学受験シーズンのことを指しているのだろう。ちょうどその翌日は第一志望にあげていた大学の受験日で、午前からの予定だった試験が午後からになったことをよく覚えている。チャリも漕げない、車は自宅の駐車場でスタックして、近所の人が手伝ってくれたけれどこれは無理だ!と父に言われ、強い顔をして歩きで30分以上かけて駅へ向かったあの日。溶けかけで茶色くベチャベチャになった雪を、車の轍を通りながら歩いた。なんだか強くなった気がして、どんなことも乗り越えられそうな気がした。電車のダイヤはめちゃくちゃだったけれど、なんとか間に合って試験を受けることができた。まぁ結果はダメだったんですけどね!!とはいえ補欠合格ではあったので、少しは報われたかなぁという感じ。懐かしいね。ていうかあの日から10年くらい経つのか、、、と思うとかなり真顔になる。時の流れ早いな〜、でもだいぶ記憶薄れてるから妥当な早さなのかな、、、と思いを馳せつつ退勤。

職場を出ると、もうアスファルトが全く見えず、地面は真っ白だった。くるぶしの上くらいまで積もっている。こんな機会なかなかないな、と思って帰る前にリュックにしまったスマホをわざわざ出す。今回はちゃんとチャックを閉めた。普通に降る雪、積もった雪の上に落ちているいつもより濃い木の影、ザクザク雪を踏む音。とりあえず動画で残しておく。なんだか世界から取り残されたような気持ちがした。静かだからかな。そのあいだも、サラサラと傘の上に雪が積もっていく。

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途中に生えていた、いつも気にかけてすらいなかった背の高い雑草に雪がついて、樹氷みたいになりかけていた。なぜか道の途中に靴が揃えて置いてあって、雪が中に入って大変なことになっていた。また誰か履くのだろうか。駐車場を通りかかって、そういえば車のワイパーを上げてなかったことを思い出す。雪の重さで歪んでしまうらしい。やったことがないので壊すんじゃないかと不安だったけれど、思いの外かなり簡単だった。その時に、手袋越しに触った雪の冷たさが中まで伝わってこないことに気づく。水分がかなり少ない。サラサラだ。触った手袋をみると、雪が溶けずに塊になって手袋の繊維に張り付いている。なるほど、これが雪の中走り回った犬のお腹に雪玉ができる原理か、、、と変なところで納得してしまった。

家に入ってカーテンを閉める。ベランダの欄干にも雪が10cmくらい積もっていた。せっかくだし、と少し外に出て、欄干に積もった雪を集めた。

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顔はない。でも情はわいたのでお皿に受けて部屋に入れた。寒かったので大量の野菜スープを作り、また舌を火傷した。その間にどんどんと溶けていく雪だるま。

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下の方から透き通っていく。想像していた溶け方ではない。

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4時間ほどで完全に溶けてしまった。よく見ると、溶けた水の中に黒い粉がうっすらと沈んでいる。あ、雪って汚いんだな、、と改めて実感した瞬間だった。食べちゃダメって言われていた意味をようやく身をもって知った。

深夜にかなり気温が下がる予報だったので、水道管の凍結対策に水を少し出しっぱなしにして寝た。水道管の凍結なんて気にしたことなかったので、調べまくってやはりやるべきと判断した結果だった。とても心許なかったけど、その甲斐あって翌朝水が出ないなんてことはなかった。

 

結局雪は昼過ぎまでしんしんと降り続けた。止んだ後は青い空と太陽が覗き、積もった雪を容赦なく照らしている。職場前の公園で先輩が大きな雪だるまを作っているのが見える。辺りをよくみるとあちこちに大きめの雪だるまがあって、みんなが楽しんだ痕跡が残っていてかなりいいなとニコニコした。

大寒波、何事もなく過ぎ去ってよかったですねぇと上司と話していた。その後数日間ずっと氷点下の気温になること、そして数日後にはノーガードで吹雪の中チャリを漕ぐことになるのを、この時の私はまだ知らない。