よき春の始め方

平日の連休ではない一日休みだったのだが、用事があって早朝に起きた。前日に見た天気予報的に、暖かい一日らしい。去年の冬に買ったチェックのプリーツスカートと、最近買ったチョコスプレー入りのバニラアイスのようなカーディガンを着て、ライダースジャケットを羽織る。イヤリングは最近してなかった小さいパールの群れがぶら下がっているもの。燃えるゴミの日だったので、前の日の晩にまとめておいたゴミ袋を持って階段を少し降りたところでアッとなる。履こうと思っていた革靴ではなく、仕事で履いてる萎びたスニーカーで出てきてしまった。せっかくのオシャレできる日なので、戻って履き替える。
まだ日も上らないうちだったのでさすがに肌寒かったけれど、目的地に着く頃にはだいぶ暖かくなっていた。住んでいるところとは比べ物にならない都会なので、用事のついでに色々な買い物をするつもりでもあった。といったものの、去年はオシャレがしたい欲がすごく、そんなに着る機会は多くないのにめちゃくちゃ服を買ってしまっているのだった。しばらく洋服に割く分は節約したいところ。街をふらつき始めてすぐに、可愛い犬のイラストグッズが目に入った。友人の愛犬が浮かんでしまったのでプレゼントとして購入。近々会う予定だし、これはいいお金の使い方だから、、、!
目的のものを買ったり悩んでやめたりして、用事前に早めのお昼を食べようとローストビーフが売りのお店に立ち寄る。早めだったので入店時私しか客がおらず、あえて店外から見える位置に座って他の人が入りやすい雰囲気を醸し出すなどした。
用事を済ませ、また街に開放される。ライダースがいらないくらい暖かいなぁと思いながら歩く。実はもう一つ用事があって、その時間まで大きな本屋さんへ行こうと思い立つ。住んでいるところ周辺には大きな本屋さんがないから、、、何冊か欲しかった本を購入。家に何冊も積んでいる本があるのもわかっているけれど、購入です。帰りに一冊読みながら帰ろう。
思っていたより次の用事までギリギリになってしまい、慌てて電車に乗り早歩きで移動。公園の近くの道を塞ぐように男の子が左右に帽子を振っていてちょっと困った。影がおもしろかったのかな。
予定時間ピッタリに到着。ダイエット中にも関わらず、インスタで見て気になっていたお菓子屋さんで取置きをしてもらっていたのだった。レモンケーキとメレンゲとナッツのお菓子。カヌレは取置き時点で売り切れだった。受け取りが時間制だったので、過ぎたら受け取れないかも、、、と焦る。地図通り歩くと細い路地に入り、迷ったのかなと思ったのも束の間、その路地では古着屋さんやカフェ、雑貨屋さんがひしめきあっていて驚いた。さらに驚いたのは、地図が示すお菓子屋さんが先に見えている古そうなアパートで、目の前まで来ると色んなお店が入っていることだった。カフェやお花屋さんなど、一棟丸々オシャレなお店群になっている。

アパートの看板まであった。すごい。すごく、すごく素敵。ただ、目当てのお菓子屋さんの看板が見えなかったのでここで合っているか不安は残る。取り置き予約をした際言われた通りに階段の下で待つと、上から嬉しそうなカップルが降りてくる。おや、と思うのと同時に「こんにちは〜ご予約のお客様ですね〜」と暖かい声が聞こえた。返事をして金属の階段をあがり、導かれたお店へ入ると思わず「ワッ」と声が出た。

めっっちゃくちゃな素敵空間だ。すごい。狭い店内とは聞いていて、確かにこの一組分のテーブル席以外には何もない。奥にキッチンとレジがある様子だったけれど、店先の狭い空間にギュッッとこだわりが詰まっている。この日はカフェ営業はしていなかったはずなので、机の上のレモンケーキもディスプレイの一部なのかもしれない。いい天気の日差しも程よく入っていて、これこそ私が言語化したかった理想の暮らしの空間なのでは、と率直に思った。「カヌレ売りきれで、ご希望に添えずすみませんでした〜!よかったらまた来てくださいね」と店員さんが申し訳なさそうに笑う。そんなことは完全に頭から飛んでいるくらい素敵空間に心を奪われている私は「写真、、撮っていいですか、、、」としか言えず。お店のお菓子への愛が溢れている店員さんのインスタの文面から、キャピっとした若い女の人を勝手にイメージしていた。けれど実際は、綺麗で可愛らしい素敵な笑顔の女性で、ギャップでより好感度が上がってしまう。
雷に打たれたような気持ちでヨロヨロと店を出て、ボンヤリ歩く。予約制がゆえに数分しかあの空間にいられなかったのが惜しい。お店、素敵ですねとか言えばよかったな、、とうっすら後悔する。ふと足を止めて周りを見る。さっきは足早に通り過ぎてしまったから気づかなかったのか、とても素敵なお店を見つけたからか、この街もとてもいい街のように目に映る。いつか住んでみたいような気すらしてきた。とりあえず、またあの店目当てに来よう。さっき受け取った箱を宝物のように大切にぶら下げて、電車に乗る。
家に帰って、とっておきの紅茶を淹れてレモンケーキを小さいフォークで一口。アイシングのシャリっとした食感。フワフワの生地。レモンの甘くて爽やかな香り。あ、これほんとにおいしいやつだ。聴いていたポッドキャストを止め、真剣にお菓子と向き合いながら食べる。一人で食べるのがもったいないくらい、最後の一口が悲しくなるくらい、おいしい。最高のレモンケーキだった。メレンゲとナッツのお菓子はまだとってある。明日以降もザクザクと食べることができて嬉しい。
春のオシャレをして、買い物をして、いいお店でいいお菓子と出会えて。めちゃくちゃいい一日だった。あまりにいい一日すぎて日記に残したくなったので、こういうことになっている。
これはいい春のいい滑り出しですね。