知ってる街


グルメなおじさんから教えてもらったお店は、大体の位置はわかるけれど細い路地を通り抜けた場所にあり、2年間で通ったことのない道だった。なぜかやたらと猫がいるなぁと思ったら、路地の途中のスナックの店先でご飯が用意されている様子。たくさんのネコチャンが見られてホッコリしていると、教わったお店があったのだった。
入ると常連さん2人組が1組だけL字型のカウンターに座っており、思ったよりいなかったな、、と思って席に着く。いくつか注文をし、ビールを飲んでいると「ご旅行ですか?」と店主であろうおじさんに声をかけられる。ここに住んでいたが今日が最後であることを告げるとかなり驚かれ、奥の2人組にもかなり驚かれ、どこに行くのか地元はどこなのかなど色々と根掘り葉掘り聞かれて気づけばすっかり打ち解けていた。ご飯もかなり美味しく、グルメなあのおじさん先輩が「あそこは何食ってもうまい」っていうだけあるなぁと思った。途中で別の常連さん2人組も来店したが、その方達ともすぐに打ち解けてしまった。なんだここ、温度感がちょうどいいぞ、、、?
話を聞いていると、この店の常連さんは大体他のこの辺りのお店も飲み歩いているようで、店と店同士のコミュニティもあるようだった。そんなの、一人で飲み歩くと職場の人と会ってしまいそうで基本自炊してたから知らなかったよ。もっと早くくればよかったなぁ。本当にご飯がおいしかったので、たくさんモリモリ食べてしまった。常連さんたちと話しながらもだんだん混んできたので、お暇することに。店主さんに「せっかく仲良くなれたのになぁ」と言われて、お世辞であろうけれどちょっと嬉しい。また遊びに来たらここに食べに来ます!とお礼を言って退店した。いつ来るかわかんないけど。そんでたぶんその時はきっと向こうは覚えてないだろうけど。
でも今日はおいしかったし、楽しかったし、最後だけどいい夜だったのでよいのです。
いい気分で街を歩き、ホテルに行く前に最後だしと思い足湯に寄る。お湯が熱くてすぐに身体があったまった。内見しにきた時、この足湯に来たなぁ。あの時、この土地での生活が想像できなくて、不安でホテルで夜泣いたなぁ。あれから2年しか経ってないのか。
そんなこの場所での最後の夜。もう明日の今頃はここにはいない。
早く帰りたいとめちゃくちゃ言っていたのに、いざ帰れるとなるとすごく後ろ髪を引っ張られる。
友人が先月遊びに来た際、「知らない土地に転勤になると、無理になって帰ってきた人をたくさん見てきた。最後まで逃げずに、楽しんでやりきったあなたはすごいよ」と言われた。そうなのかな。転勤が結構多い職場だから、割とやりきって帰ってきた人が多くて当たり前なんだと思ってた。なんなら2年って他の人と比べても短めだし、逃げ帰ってきたと思われそうで嫌だなとすら。
どうなんだろう。わたし、ちゃんとやり切れたのかなぁ。やり残したこと、たくさんある気がするなぁ。もう少しやれたんじゃないかなぁ。
とはいえ、最後の仕事はそれなりに周りから褒められたりとかして、少しでも成長できてはいるのかなと思ったりもしてる。
それに、向こうの友人たちに帰ることを喜ばれて、恋人との遠距離終了に大きく近づいて。私にとっても帰ることはどう考えてもプラスなのだ。
帰ろうね。2年前までずっと過ごしていた関東へ。
ホテルの温泉を夜と朝の2回入り、退去の立会をし、いたたまれなくなって壁を傷つけたことを自己申告し、バカ正直すぎたなぁと少し後悔をして家を閉めた。
2年って、最初に一人暮らししたあの部屋より半年長かったんだなぁ。短いようで実は長かったのかもしれない。なんかめちゃくちゃあっという間だった気しかしないけど。そもそも5年くらいいるのかなって思ってたので思ったより短かったんだけど。
たくさん色んな人にお世話になって、優しくしてもらって、ぬるま湯につかっているような職場で。でもたまに仕事は死ぬほど大変で、めちゃくちゃ体調を崩したりして、その先のキャリアを迷ってめちゃくちゃ相談に乗ってもらったりして。おいしいものをたくさん食べて、見たことない景色も見て、ここを起点にあちこち行ってみたりして、車も乗り回して。
2年間だけだったけど、きっと一生忘れない2年間になるんだろうな。ていうかまだ行ききれてない場所もあるから、また全然観光で来たい。その時はお世話になった人たちに挨拶できたらいいなぁ。

短い間でしたが、濃密な時間を過ごせました。
ありがとうございました、またね。


(最初ビックリしたデカギツネ。最後だしいいかなと。関東へ向かう新幹線で引越し連話を書きました)