かいこの原宿

 

修論も終わって、半ばやっつけで終わらせたレポートも終わって、ついに完全に自由の身となった。

いざ自由になると、何をしていいのかわからなくなるんだなって実感してる。

 

今日は推しが出てる映画を観た後、少し散歩でもするかと思ってしばらく歩いてなかった駅で降りてみた。

若者の聖地、原宿で。

 

イヤホンを耳に突っ込みながらブラブラ歩いて、気まぐれに店に入ったりして。

そしたら竹下通りにたどり着いた。

 

目的という目的があるわけではなくて、

ただなんとなく、もう一回行っておきたいお店があった。

二十歳の今くらいの時期に行った、お洒落なカフェ。

生クリームとメレンゲと苺を小さい山みたいにお皿に乗せたスイーツが美味しかった。

それに何より、雰囲気が高尚で素敵だった。

賑やかな竹下通りの脇道を逸れたところにあって、少し外れただけでこんなに静かなんだと驚いた記憶がある。

ただ、正確な位置も店名もを覚えていなかった。

だから、そのお店を見つけられたらいいなと思って竹下通りに来た。

 

何年くらい来てなかったんだろう。

初めて来たときは確か小学6年生とかで、

ニコラに載ってるようなお店がたくさんあって、はしゃいで、クレープを食べてあちこちお店に入って。

中学生くらいまでは年に1.2回行くような特別な場所だった。

 

思い返せば一人で竹下通りを歩いたのって、今日が初めてだった気がする。

 

耳に突っ込んだイヤホンから、最近ハマってるCreepy Nutsの『かいこ』が流れてくる。

 

「アレ? いつの間に この駅にもビルが建ち
洒落たカフェや高級なスーパーに追いやられた思い出達」

 

イントロ終わりのこのフレーズに思わずふふっと笑ってしまう。

タイミングよすぎ、まんまじゃんって。

 

ビルが建ったわけじゃないけど、小中学生の頃浮かれながら歩いた竹下通りとはもうまるで景色が違った。なんなら最後に来た記憶がある二十歳の時と比べても明らかに違う。

安くてファンキーな服が多く並んでた店はスタイリッシュなランニングシューズのブランド店になって、フワフワ系の流行ブランドだった店はタピオカ屋になって、森ガールに憧れてた私が思い切ってファッション懐中時計を買った店はもうどこだったかわからない。

 

それに、あの頃目を輝かせて眺めてた服は、今ではちょっと若すぎるような気がした。

 

せっかくの竹下通りなのに、ほぼ全店舗素通りで、ただただどの路地に入ればあのカフェがあるのかを考えながら歩いた。

イヤホンからのCreepy Nutsのおかげで喧騒も変な客引きも気にならなかった。

 

この辺かな?って思った路地を曲がってしばらく歩く。

一気に静かになって、目の前にお洒落な建物が現れた。

ここだ。間違いない。

閉店してる様子もなく、中で人がお茶をしているのが見える。

店の前のメニューが電子タブレットになっていたけれど、記憶の中のお洒落なカフェと完全一致だ。

嬉しくなって中に入った。

 

 

 

「申し訳ございません、本日ラストオーダー終わってしまいまして、閉店になります」

 

 

時計を見たら17時前。

ランチ・カフェタイムの閉店は17時。

なるほどたしかに。

 

またの機会に、今度は友達でも誘っていこうと決めた。

もう場所はしっかり覚えた。

どんなに景色が変わっても、きっと曲がる路地は間違えないと思う。

 

今日はあのスイーツは食べられなかったけど、

嬉しい足取りでメインストリートに戻ったら、なんとなく、もう私の知らない竹下通りではなくなったような気がした。

 

 

終わり。