育ってきた環境が違うから

 

他人の嫌いな食べ物は、大抵は理解しあえるものではない。嫌いな理由を聞いても、ピンと来ないことの方が多い。しかし、思いがけず面白いエピソードや物の見方を聞けることもある。

 

中学生の時にクラスで一緒だった女の子。オシャレで絵もうまいし、なんというかセンスに溢れていた子。修学旅行の部屋が一緒で仲良くなったのだけれど、そんな彼女はトマトが嫌いだった。理由はシンプルに、気持ち悪いから。彼女が放った「あのプチプチの種、絶対宇宙人の卵じゃん」という超絶パワーワードを、私はどうしても忘れることができない。確かになかなか無い色の膜に覆われてるよな、、、

彼女のパワーワードを超える理由にはまだ出会えていないが、他人の嫌いな食べ物の話を聞くのは好き。覚えておくと色々と便利だし。

 

そんな私は、基本的には好き嫌いはない。食卓に並ぶレギュラーメンバーは全然普通に食べられる。ピーマンもキノコもナスもトマトも普通に好き。パクチーもセロリも嫌いではない。「嫌いな食べ物は?」と聞かれると、ちょっと悩む。でもその後すぐに「蜂蜜」と答える。大抵は怪訝な顔をされる。たぶん、珍しいから。

 

正確に言えば "アカシアの" 蜂蜜が嫌い。他の花の蜂蜜ならそんなでもない。後輩に誘われたお店が、机に色んな蜂蜜が置かれていて肉とかにかけて食べる蜂蜜レストランだったことがあるが、断れずに行って食べてみたら普通に美味しかった。バンドサークルの合宿所で売ってたミカンの蜂蜜も美味しかった。どうしてもダメなのは、一番手頃な価格帯でスーパーに売っているアカシアの花の蜂蜜だけだ。このアカシアの花の蜂蜜が、蜂蜜市場のシェアNo.1なのでとても困る。

 

思い当たるきっかけは二つ。一つ目はそんな大したことではない。小学校の給食で食パンにかける用として出てくる、絵の具のチューブみたいな蜂蜜が臭くて臭くて食べられなかった。これがまず第一のきっかけ。

もう一つのきっかけは、母の優しさだった。母が、私が喉が痛いと言った日に仕込み、翌朝出してくれたもの。落語家が喉を痛めた時に飲んでるってテレビで言ってたから喉にかなりいいのよ〜といって手渡された、小さいペットボトル。中には蜂蜜に漬けられた刻み大根。この大根からでるエキスを飲むのだが、これがまぁかなり、、、、、、良かれと思ってやってくれてるのはわかるのだけど、もう言ってしまえば拷問だった。残すと申し訳ないので、何回か吐きそうになりながら全部飲む(といってもかなりの少量だけど)。大根を食べてもいいのよ〜と言われたけど、とても食べられそうになかった。

喉が痛いと言うとしばらくの間これを出される日々が続いたので、気軽に言えなくなった。あんまり覚えてないけれど、確かアレだけは本当にやめてほしいと言ったような気がする。アレが出されたのは一時期だけだった。

 

基本的な食材は全部食べられる。でも、アカシアの蜂蜜だけはどうしても無理。市場のシェアNo.1だとしても無理。大学生で喉を壊した時、蜂蜜を舐めるといいと調べたら出てきたのでスーパーで買って、さすがにもう食べられるようになっただろうとペロっと舐めただけでもう無理だった。ジューススタンドで買った巨峰のジュースの味の奥深くに蜂蜜を感じて、悲しくなったこともある。この歳になって無理ってことは、たぶん今後もずっと無理。

 

最近料理をするようになってから、蜂蜜を使うレシピをよく見かける。砂糖じゃダメなの?と思う。蜂蜜の風味はちゃんと飛ぶのか?どれくらい蜂蜜の味するのか?と、レシピに明記してほしい。蜂蜜は腐らないらしいので、料理に使うだけの用途でも問題はなさそうではあるが。

未だに蜂蜜を買う勇気も、料理に使う勇気も出ない。