ひとりぼっちは怖くない

 

通勤定期を払い戻した。頼んでいなかったけれど「印字も消しておきました〜」と言われて返された定期券は、青紫色の細いカタカナの名前と共に、使っていた駅たちの文字の抜け殻も残っていた。一人暮らしで暮らした街の最寄り駅の印字は、ほとんど跡が残らなかった。一年半。きっとこの先過ごしていく中で、この街の記憶はこの印字みたいにどんどん存在が薄くなっていくのかもしれない。

 

部屋を引き払う当日、予定よりも早く目が覚めた。業者が来る前に、親が実家から色々と持ってきてもらう予定だった。カーテンを外したり部屋を整理したあと、疲れてしまいちょうどヒト一人分くらいのスペースを作って横になった。

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積み重なる箱のタワーを下から見る構図は、この先なかなかないだろうと思って撮影。そういえば昨夜は寝付きが悪かったな、、、と思いながら気づけば眠りに落ちていた。10分くらいで目を覚ますと、ちょうど親から到着の連絡がきていた。親を迎えて荷物を部屋に運んでいる途中に引越し業者も来た。

そこからはあっという間で。

バーっと養生がされ、やっとの思いで詰め込んだ数々の箱が運ばれ、家具たちも手際よく部屋を出て行った。引越し業者に頼んだのは初めてだったのだが、感じの良いお兄さんたちのせっせと作業するプロの手際は感動物だった。

無事に作業が終わり、部屋の全てがトラックに乗って去っていく。

とはいえ、向こうに行ってから荷物が届くまで2日かかる。シャンプーなどの生活必需品はトランクや旅行鞄に詰めたので、大きな鞄が3つほど残されていた。家具があった場所の周りにうっすらと埃がかぶっていて、そこにあった家具の形を残していた。掃除をした後、不動産屋の退去点検立ち会い。特に問題なしとされて、とりあえず安心。

 

これで、この部屋はもう私の部屋ではなくなった。ネットでマンションの名前を調べてみたら、もうすでに入居募集がされていた。いい人が住んでくれるといいね。一年半、お世話になりました。

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いい部屋だった。ありがとう。

 

そのまま実家に車で帰った。車で来たことがなかったので新鮮な道のりだった。その日のご飯は母の得意メニューである豚の紅茶煮で、いつもの帰省時と同じようにオススメのドラマを見せられた(面白かった)。

その日もあまり寝付きは良くなかったけれど、出発の朝は早いながらも不思議とスッと目が覚めた。母が眠い目を擦りながら見送りをしてくれて、父がわざわざ車を出して駅まで送ってくれた。かなりの荷物だからグリーン車でも使えば、と提案されたが、結局普通車で空港まで向かった。

東京で一人暮らしを始める日の行きの電車でも聴いたBUMP OF CHICKENの『バイバイサンキュー』を今回も聴く。前回はそんなに移動距離もなく、着いた先もひとりぼっちではない場所だったのであんまりしっくりこなかったけれど、今回はかなり身にしみる。そのまま『車輪の唄』や『銀河鉄道』といったBUMP引越しメドレーを流した。車窓から見える空はどんよりと曇っていて、こんな日くらい晴れてほしかったなぁと思った矢先にいきなり日が差した。今日のフライトは問題なさそうだ。

 

空港では近くに住んでいる友人が見送りに来てくれるとのことで、事前にチェックインを済ませてトランクを預けておく。友人と合流した後、保安検査期限まで30分以上あったのでカフェに入った。餞別としてアイスティーを奢ってくれ、機内で食べて、とチョコもくれた。手紙を書こうとしたら寝落ちしたんだよね〜と言いながら、「住所書いとくからこれで手紙をください」と目の前で花柄の小さい便箋に文字を連ね始めたから思わず笑ってしまった。

保安検査所に入る、別れの時。あんまりしんみりした空気にしたくはなかったけれど、お互いに何を言えばいいのかわからなくて少し困った。まぁゆーて2週間後フェスで会えるし!と明るく別れ、一人で歩いていく私の姿を彼女は動画で残していてなんだか気恥ずかしかった。

そのまま荷物検査のレールに二つの大きいカバンを乗せたが、それぞれドライバーとハサミが入っていたため足止めされた(本当にすみませんでした)。ゲートから見える、さっきまで友人が手を振っていた場所にはもう知らない人が歩いていた。

乗る予定の飛行機は、なんらかの機材トラブルで1時間ほど遅延した。こんなことならもう少し一緒にいられたな、と思いながらインスタを開くと、友人がデッキから全然違う飛行機を見送っている動画がストーリーに上がっていた。申し訳ないながらもかなり笑ってしまった。うん、こういう別れがちょうどいいよね。DMで謝りながら、正しい飛行機を見送れるようにその後の動向を実況した。来てくれて本当にありがとうね。

機内ではもらったチョコを食べそうとしたが、入れていた方のカバンを上にあげてしまっていたので諦めた。先日の高校の友人たちとの会合で少し話題になった『ちょっと思い出しただけ』が機内映画のラインナップに入っていたので観ようとしたが、なんとなく機内で観るような映画ではない感じがしたのでやめた。大学の友人に餞別としてもらった、穂村弘の『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』を読んだ。本は好きだが、詩集は買ったことがない。読んだこともほとんどない気がする。それにしても、夏に引越しをする友人にこの詩集を餞別として渡すなんて、なかなか粋なことをするなぁ。私は彼女に「趣がない!」と叱られたことがあるのだが、なるほどこれが趣、、などと思いながら読んだ。

向こうの空港に着いて、荷物を受け取る。一時間遅延したが、バスは合わせて待ってくれていた。夏休みに入りたてのようで、祖父母の家に遊びに来た小さい子連れの家族で賑わう中、大荷物の女が間を縫って通り抜けるのは結構大変だった。バスを降り、乗り継ぎまでに入ったカフェでレモンソーダフロートを飲んだ。私好みの酸っぱめのソーダが気に入った。早くも一つ、お気に入りを見つけて心が躍る。

 

そのまま電車に乗り、最寄りにつき、不動産屋と落ち合う。あまりの大荷物に結構笑われた。しょうがないじゃないですか。事務所で説明を聞いた後、家まで車で送ってくれた。荷物を置いてその足で市役所へ手続きをしにいく。バスの運転手さんが市役所に一番近い停留所をしっかり考えてくれたり、市役所の警備員さんが入り口までの順路を丁寧に教えてくれたりして、みんな親切だった。思いの外時間がかかり、待合所でついていたテレビの大相撲を結構ちゃんと観た。推しの力士が休場となっていてかなり悲しい。優勝争い絡んでいたんだけどなぁ。ガスの開栓立ち会いの時間を勘違いしていたので、手続きをした後直帰。立ち会いも無事に終えた。

 

ひと段落したのち、カーテンを取り付けようとしたが、背伸びをしてやっとといった高さで本当に大変だった。しかも一人暮らしの家で使っていたカーテンは長さが足りなかった。

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つんつるてんというやつ。悲しい、、、、

 

諸々終わって、とりあえず引っ越しは無事完了。疲れたなぁと思いながらふと窓の外をみる。


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虹がかかっていた。

ビックリ。引っ越し初日にこんなことある?

こんなの、幸先良すぎだと感じざるを得ない。

感じていた疲労感がなんとなくスッと消えていく。こんな時こそ、とBUMPの『なないろ』を流しながら、虹が消えてゆくのを見守った。

 

見送ってくれた友人からもらった封筒には、住所が書かれた便箋とは別に、短いメッセージが書かれた二枚目が入っていた。ちょっと泣きたくなった。何にもない、広い部屋の真ん中でトランクを広げて、床にベタ座りして。もらったチョコ(溶けかけ)を食べて。

随分と遠くに来たな。

家族、友人、なかなかに会えなくなった。

ここで生きていくしか、とりあえずはない。

 

寂しいけどがんばるよ。ほどほどにね。