知らない街

 

きっとその場所に行ってみたら実感って湧くんだろうなって思ってた。

飛行機とバスと電車を駆使してたどり着いた。

住む予定の家を見せてもらっても、手続きを済ませても、周辺を歩いてみても、働く予定の職場まで行ってみても、全然しっくりこない。ずっと第三者の気持ち。他人事。当事者感が迷子。

私、ほんとにここに住むの?

 

街自体はそんなに嫌なイメージもない。むしろ亡き祖父母が住んでいた温泉地と似た雰囲気の場所だなぁと感じる。車さえあれば快適に過ごせるんじゃないかな。職場も今のところよりも外観でいえば新しそう。たぶんちょっと前に建て替えたみたい。家も色々と考えて悩んで相談した結果、広くて新しくて綺麗でセキュリティもバッチリなところに決めた。今日初めて中に入って綺麗すぎて笑ってしまった。今よりも家賃は上がるが、会社都合の異動なので家賃補助が出るのでそこは甘んじた。

たぶん、順調。着実に準備は整ってきている。

なんでそこに、自分はいないんだろう。

 

飛行機が飛んでる間ずっと寝てたからか?とか思ったりもしたけど、たぶん、全然そんなのは関係なくて。

シンプルにまだ全然覚悟が足りてない。ただそれだけのことなんだと思う。わかってはいる。

 

家族と、友達と、簡単には会えない距離まで離れる。それも5年くらい。

私の中でそのイメージができていない。

そりゃあ帰ろうと思えば帰れるし、永遠に会えないことなんてない。

でもきっと離れている間に両親は老けていくだろうし、姉や友人たちの人生もどんどん進んでいくだろうし、時の流れが私と向こうとで変わっていって、私だけ置いてけぼりになるんじゃないか。そんな怖さがある。時間はどこも同じように流れるのはわかっているのに。

この間「臆すること、何もないんじゃない?」とか言っておきながらこのザマよ、ウケる。

 

最近、友人たちと怒涛のように会っては「元気でね」と言われる。送別会を開いてくれた友人がつけたグループLINEの名前は、「さよなら」の後に私の名前が続いていた。全然それら自体は嫌じゃない。むしろ「元気でね」なんてありがたい言葉だ。私だって今まで色んな人に使ってきた。だから、そう言われた時に「そうか、私、この人たちの前から去るんだな。さよならって、言われる側なんだ」って感じるのは、私個人の問題なんだよ。

 

異動希望を出したのは私。

希望が通って、新しい一歩を踏み出せたのは嬉しいよ。

でも怖い。

 

一人暮らしを始める時、母が「無理だと思ったらいつでも帰っておいで」と別れ際に呟いたことを今でも覚えている。そう言ってもらえた方が心軽いでしょ、と。

内見に来ただけのホテルで、電気を消した瞬間に一気に寂しくなった。

もうすでにホームシックじゃん。都内に一人暮らししてた時はホームシックの欠片すらなくて、一人暮らし最高ヒャッッホゥ!!!て感じだったのに。

このままだと考えすぎて眠れない予感がしたので、電気をもう一度つけてこれを書き始めた。

 

最初の段落を書いたところで、インスタの通知が来た。開いてみると、しばらく連絡を取っていなかった大学の後輩からだった。夕方に見つけて入ったカフェの写真のストーリーに対する反応で、ここに旅行で来たことがあってすごい良かった、とのメッセージだった。

 

別れに対する言葉じゃない、それでもこの土地に来ることが決まった私へのメッセージ。まだ全然この場所のことを知らない私なのに、後輩から褒められてなんだか嬉しく、誇らしく感じた。そう感じられたことに、少し心が救われた。

私、ここのこと、ちゃんと好きになれそう。

後輩にお礼の言葉を返す。すごいタイミングだった、ありがとう。

 

ちゃんとここが私の居場所になるように。願わくば、どんな場所か聞かれた時に「いいところだよ」って笑って言えるように。閉じこもっていないで、たくさん出かけてこの場所を知っていきたい。

 

それでも家族と友達と、ずっと繋がっていられるように。今の居場所も、これから先も居場所でいられるように。守りたい縁は自分でちゃんと繋いでいく。

 

 

実感が湧くかどうかはさておき、ちょっと覚悟はできた気がする。ちゃんとまた眠くなってきた。そもそも今日は暑い中めちゃくちゃ歩いたのだ。疲れているから早く寝よう。

明日、というかもう今日だけど、帰りの飛行機までの時間に何しようかな。