ガラスの眼と下僕

 

大学院の同期と1年ぶりに会った。一人暮らしを私が始めてから、住んでいる場所がかなり近くなったのでなんとなく不思議な感じがする。私の学科の院生の同期は私と彼女の二人だけで、彼女は学部時代は違う学科で勉強をしていた。いつ何で知り合ったのかは全く覚えていない(たぶん教職の授業だとは思う)けれど、院に上がる前に知り合ってはいた。研究テーマが違ったので研究室は違ったが、ずっと異質な世界の中で、これは異質だと分かち合える唯一の存在。互いに励まし合い、乗り越えてきた相手だ。

その日は同じ路線バスに乗った先にあるおしゃれタウンで猫カフェに行こうということになった。

猫カフェは一度だけ行ったことがある。結局課金おやつを持っている人の価値があがるその空間で、一緒に行った人がだいぶクセのある人で、自分だけおやつを買って猫ちゃんを独り占めしているのを遠巻きに見ていた。今思えば私もおやつを買えばよかったのかもしれないけれど、その空間で私は自分が猫を撫でるのがありえないくらい下手だという事実に気づかされた。以来猫カフェを避けていた。猫の労働という観点でも首を傾げたくなっていたし。

それでも今回は久しぶりに会う友達の要望だったし、実は一度元恋人と行こうとして行けず、それが発端で喧嘩に発展した場所だったので、思い出の上塗りという側面もあって予約をとった。

 

事前に仲の良い先輩に猫を撫でる方法を相談すると、猫が近づいてきても興味のないフリをするのが一番いいとのことだった。なるほど。

ということでいざ当日。

案内された席の真横に置いてあったテレビを模したベッドの中に早速猫が寝ており、もうダメだった。

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(おる〜〜〜〜〜!!!)

(ちゃんと静かなシャッター音で撮りました)

 

そこからはもう語彙力がなくなってしまった。入店時にいた人たちは完全に猫マスターという感じの方々で、店の中心にいたおじさんが完全に猫の名前も熟知しており、萎縮してしまった。それでもやはりせっかく来たし触れ合いたい、、、、と自身を奮い立たせ、あちこちで寝ている猫の横に、そっと座ってみるなどした。

 

寝ている猫を触っている人も多く、申し訳ない気持ちになりながらも恐る恐る触れてみる。温かくて、柔らかくて、ふわふわで、「そうだ、猫ってこんな感じの手触りをしていたな」とはるか昔の記憶が蘇ってくる。近所に猫をたくさん飼っている家があって、たびたび遊びに行かせてもらっていた時期があった。その頃の記憶だ。あとあと聞いた話、その家のお母さんは実は猫よりもパンダがすごく好きだったんだとか。大人になった私とかなり話が合ってウケた。

 

そんなことを思い出している人間に構うことなく、テレビベッドの中の彼女はずっと寝ている。見守っていると、おもむろに起き出し、水を飲み、おやつを持っている人に催促し、爪を研ぎ、またベッドに入る、を繰り返していた。なんて素晴らしい。最高の生活だ。他の猫もそんな感じで気ままに暮らしていた。近くに来る!と思って内心身構えつつも興味のないフリをすると、すべての猫が私を障害物のようにスルリとかわして通り過ぎていく。先輩のアドバイス、全く役に立たず。途中で来た執拗におもちゃを持って猫を追いかけて戯れさせようとしているちびっこには、みんなウンザリしている様子だった。やめてさしあげろ。

 

完全にあの空間は猫の方が上の存在で、人間はみんな下僕だった。私もずっと猫に対して敬語を使っていた。テレビベッドの中の彼女を友人と共にいたく気に入ってずっと見守っていたのだが、二人ともその猫の名前に「さん」と敬称を付けて呼んでいた。呼び捨てなんて恐れ多いのよ。

 

Twitterで以前、猫の目は横から見るとガラス玉のように透明だと聞いたことがあった。大好きなBUMPの有名曲にも、ガラスの眼をした猫の歌がある。

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写真はブレているが、たしかにそうだった。丸くて、なんならガラスより透明だった。猫にはどんな風に世界が見えているのだろうか。

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小さく上下する柔らかいお腹。何もつかめそうにない小さい手。薄くて血管がうっすら透けている耳。すべてが愛おしい、ただただ幸せに生きてほしい。

睡眠を邪魔した私が言うのもなんですが、、、

「お相手してくれてありがとう」とテレビの中の彼女に別れを告げて店を出た。普通に日常に戻り、バスに乗って帰宅。あの柔らかさと温かさが、まるで幻のように今は思える。

 

いつか猫を家に迎えるのが夢だ。叶えるのはいつになるだろう。その夢を絶対に実現するんだ、、と強く胸に誓った。その横で同じように友人も「猫飼いたい〜〜」を繰り返していた。恐るべし猫パワー。人間は完全に下僕。逆らえない。

 

ネコチャン最高!!!