白雪と小麦

 

自転車通勤になって2週間がすぎた。高校時代の自転車通学が思い出されて、あの頃に戻ったような感覚が少しある。

朝は東にペダルを漕いで登校し、夕は西にペダルを漕いで帰宅。太陽を追いかけるように自転車通学をしていたあの頃、私は体育館部活にも関わらず真っ黒に日焼けしていた。その肌をしょっちゅうイジられた。テニス部の友人に「私より黒くない?!」と腕を並べられて、心底うるせえと思った記憶がある。毎年のように「今年は焼かない!!」と日焼け止めのCMの決め台詞を引用して周りに宣言しては、どこかしらのタイミングで日焼け対策を怠ってズルズルと黒くなっていった。ぶりっ子後輩に「今からちゃんとしてないと、将来的にシミシミになっちゃいますよ??」と上目遣いの上から目線で言われ、心底うるせえ!と思った記憶もある。今思い出しても腹の立つ余計なお世話発言だが、すっかり大人と呼ばれる歳になった今、たしかにシミは出てきていてなんだか悔しい気持ちになる。

私の日焼けは、大体赤くなるフェーズをぶっ飛ばしてすぐに黒くなってしまうケースがほとんど。かなりひどく日焼けした際は赤く痛くなった後、肌がスッと黒く染まる。私見だが、肌の焼け具合が充実した夏休みの勲章だった小学5年生の夏に、毎日のように学校や市民プールで友達と遊んだことによって焼けやすくなったのではと睨んでいる。科学的根拠はゼロですが。本当にすぐ黒くなるので、日焼け止め塗らなくてもそんなに焼けない子や、日焼けして赤くなった後に皮が剥けて元に戻る人がずっと羨ましかった。

 

大学一年の夏、その年も焼かない宣言をしていた私は、本当に経緯は思い出せないが母校の野球部の試合を一人で観に行った。本当になんで?そこでたまたま出くわした、隣のクラスだった女の子と観戦することになった。母から日焼け防止用のパーカーを借り、キャップを被って日焼け対策をしていた私に反して、彼女はノースリーブの可愛いワンピースを着ていた。帰宅すると母が地元のテレビで放送されていたその試合をなぜか録画していて、カメラに私と彼女がたまたま抜かれていた。汗だくで大きいパーカーをズルズルと着た何だか見苦しい私の横で、真夏の気候に合った素敵なワンピースを着た彼女。ああ、なんか。これは違うなぁ。日焼け対策メインにするよりも、夏を思いっきり楽しんだほうが絶対に素敵だなぁ。画面の中の暑さで覇気がない顔をした私とキラキラした笑顔をしていた彼女が、なんとなく忘れられない。その頃くらいから、日焼け対策を熱心にすることに対して少し懐疑的になった。

それでも夏の日差しに晒されるとすぐ黒くなる肌を、やっぱりどうしてもイジられる。「あれ?なんか焼けた?」と言われるのが本当に嫌だった。それでも日焼け防止の長袖とかを着るのも違うだろうと野球応援の彼女を見て感じていた私は、どうしたものかと思っていた。

 

そんな話をした時、サークルの友人に「でもあなたは白い肌よりもちょっと小麦色くらいの方が似合うよ」と言われた。

 

サラッと言われた言葉で、言った本人もそんなに意識していなかったと思う。それでも私にはかなり衝撃的だった。なんとなく、白い肌に憧れていて、白い肌じゃなきゃいけないと思っていて、だから白い肌になりたかった。でも、この色の方が私に似合っていると。目から鱗が落ちるとはまさにこのことだ。嬉しかった。黒くなっていく肌を散々イジられてきて、毎年強い日差しが憂鬱だったから。そんな私の体質をその一言で全て受け入れてくれた気がして、本当に嬉しかったのだ。だから私はその時から、日焼け対策を必死ですることをやめた。

 

たしかに今でも白い肌には憧れはある。けれどそれは日本人が外人に憧れるようなレベルの憧れで、絶対になりたい!という意識はなくなった。今でも毎日日焼け止めは塗っているけれど、それはあくまで紫外線による肌の老化対策のためのもの。

自転車通勤になって2週間。その上、昨日の野外フェス。

今年はここ数年でとびぬけて、小麦色の肌になってきている。